『ヘビ・イタ・ヘビ・ヘビ』
幼児のように単語だけ並べたてながら
おばあちゃんは真剣に私の眼をのぞきこんでくる
べつに呆けてしまったわけではない、興奮しているだけ
夕方、ご飯の支度ができたので、畑まで義母を迎えにいったところ
彼女は私の姿を見るやいなや上記の単語を連呼しながら
走ってきた・・・・たぶん彼女の気持ちの上では走ってきた
足が悪くて、上体を揺らしながらゆっくりとしか移動できない
年齢80を超えた人物であるのだけれど
顔を上気させ、息せききった様子から推測するに
間違いなく走ってきたのだと思う
おばあちゃんは手に持った小枝で畑の中心部を指し示しながら
『網に蛇が頭突っ込んで・・・』
といった
みれば防鳥ネットが畑の真中に放置されている
収穫が終わったので網を外し、きちんとたたんで
ほかの道具と一緒に最後にしまおうと、その場にちょいと置いておいた。
仕事が終わって片付けようと近寄ってみたら
蛇が絡まっていたものらしい。
蛙でも追いかけて入ったものだろうか。
なんとかしたいがヘビは恐ろしい
うっかり近づいて咬まれたりしたくはない
その日は、蛇が逃げ延びることを祈って
蛇の絡んだ網は放置して帰った。
翌日、気になっておばあちゃんと二人畑にいく
網を覗いて来いという。
そろそろと、遠巻きに近づいていくと
いた
青いような、赤いような模様の蛇が
胴体はソーセージくらいの太さがありそうな体格のいい蛇だ
長さは1メートル以上ありそうだけど、頭を網の塊の中に突っ込んでいるので正確にはわからない
おばあちゃんが攻撃用の武器を調達してきた
物干し竿だ
二人で竿をそれぞれに構え、先っぽでつついてみる
動かずにいるから死んでしまったのかと思ったが、さらに突くとぞりぞりと動いた
生きている。けれど自力では逃げることができないようだ
さて困った、どうしよう
おばあちゃんは
『おじさんにたのんで来る』
と言ってご近所さんの縁側に回り込んでいった
やがて、魚釣りが趣味で、時々釣った魚をおすそ分けしてくださるおじさんがやってきた
『俺だって蛇は苦手なんだよ』
といいつつやってきたけれど、短パンにTシャツというラフな格好だ
まあ、私だって台所用エプロンにサンダル履きだけど
おじさんは、しばらく棒のさきで蛇をつついていたけれど
蛇の動きに力がなくて巻きつく力もなさそうだと思ったらしく蛇の近くにしゃがみ込んだ
網を切るという
私は鋏を取って戻りおじさんに渡すと
オジサンはちょきちょきと網を切り裂きにかかった
防鳥ネットは丈夫だ、なかなか切れない。オジサンは根気よく切り進む
蛇の胴体に縦に沿って切り進む
蛇は何かをされるものと感づいたのかぎゅうと体を縮め波状になったがとぐろは巻かなかった
私とおばあちゃんは相変わらず竿を構えたまま遠巻きにしてみている
おじさんはさらに切り進む
20センチくらい進んだけれど蛇の頭部は現れない
さらに20センチくらい切ったところでようやく頭があらわれた
口にも首にも細い網の繊維が食い込んでいる
蛇じゃなかったら、たぶん息もできないだろうな
『おまえさぁ、助けてやってるんだからさぁ、咬むなよ』
オジサンは蛇に話しかけてる
周りの網をすっぱり切り取ったのでへびは自由になっていた
頭部にはまだ繊維が食い込んでいるのでオジサンはその繊維を切ってやろうとしている
繊維を取り外さなければ、たぶん餌をとれないだろうから
動けるようになった蛇はするすると私たちが竿を構えているのを反対側に移動をはじめた
ゆっくりと
おじさんはしゃがんだままへびと一緒に移動しながら器用に鋏を使っている
一メートルほど蛇と一緒に移動していたが、ようやく最後の繊維を切り離したようだ
蛇はさらに進む速度を上げた
おじさんは蛇使いのように棒で地面をたたきながら蛇を追っていく
私は指が痛くなるほど竿を握りしめていたのに気がついた
この畑には場違いな道具を、本来の場所に戻すことにしよう
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